「ヒロタ キミコ」さんのこと

公園で遊ぶ子供たち
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今日は、私が小学校高学年の頃、同じクラスだった「ヒロタキミコ」さんのお話をします。

小学校の4年生か5年生・・・だったでしょうか。
私はその当時あまり目立った生徒ではありませんでした。
少し運動が得意だっただけで、別段成績が良いわけでもなく、どこにでもいる普通の小学生でした。

私のクラスに「ヒロタキミコ」さんという背の高い女の子がいました。
とても明るく、また成績も良く、声も大きく、姉御肌の元気な女の子でした。

クラス対抗のソフトボール大会でも、応援席の一番前で鉢巻をつけ、クラスで一番大きな声で声援を送ってくれていました。
なんというか、とても快活でアグレッシブな女の子です。

ある日、担任の先生がみんなに質問をしました。

「今まで読んだ本で一番印象に残っている本、言える人!」

ちょうどその時、家にあった「ロビンソン漂流記」や「宝島」を何度も読み返していた時でしたので、反射的に手を挙げてしまいました。

普通、そういう時って恥ずかしいので手を挙げないものなのですが。

私を含め手を挙げていたのはたったの二人。
もう一人は「ヒロタキミコ」さんでした。

先にヒロタさんが先生に当てられ答えた本の名前が、

小公女

でした。
Frances Eliza Hodgson Burnett(フランシス・イライザ・ホジソン・バーネット)というアメリカの小説家の作品でもう有名ですね。

その時、手を挙げながらヒロタさんと目が合いました。
快活なヒロタさんの目は、

「なんや、本好きやったんか」

ちょっとだけ上から目線でしたが、しかし「本が好き」という趣味が一致して、なんとなく気恥ずかしかったですが・・・嬉しかった記憶があります。

また、修学旅行の感想文の発表の時。
先生が私とヒロタさんの書いた感想文をみんなの前で褒めてくれました。
そして順に先生が私達の感想文を読み上げてくれたんです。

その時ヒロタさんとまた目が合いました。
彼女は気の強い女の子にありがちな、つんと澄ました顔を腕組みしながら私の方に向けていましたが、次の瞬間、にこっと微笑んでくれました。

それから、宿題にかこつけてヒロタさんの家に行くようになりました。
なぜ彼女の家に行くことになったのか・・・
何か学校の宿題があり、彼女から「一緒にやろう」と誘ってくれたのが事の始まりだったと思います。

私の家は狭い文化住宅でしたので、私の中で「家に友達を呼ぶ」という選択枝はあり得ませんでした。
ヒロタさんの家も、私の家とさほど変わらないくらいの広さでしたが、とにかくいつも場所は必ず彼女の家でした。

小学校高学年とはいえ、まだ恋愛感情と呼べるような思いはお互い無かったと思います。
ですがなんとなく気になる存在になっていたように感じていました・・・

・・・それから6年の月日が経った高校2年の文化祭の日。
そのヒロタキミコさんと再開することになります。
高校の正門にある築山のベンチで一人両手を膝の上に置き、俯き加減で静かに座っているのは間違い無くヒロタキミコさんでした。
なぜ私の高校に来ていたのか、もちろん知る由もありません。

おそらく勉強のできた彼女のことですから、優秀な高校に行かれていたんだと思います。
その高校の制服を着て座っているヒロタさん、見違えるように綺麗な女性になっていました。

少し距離を置いて、お互いの目が合いました。
彼女も私に気がついたようです。
小学校の時のような偉そうな目線ではなく、親しみを込めて、ほほえみながら見つめてくれました。

6年の月日が経っていようと、お互いの目線は決して6年前の相手を外さなかったことに、正直驚きました。
様変わりしているはずなのに、しかしどこから見ても、ヒロタさんだとはっきりわかるんです。
しかしその場で近づいて、気軽に話しかけるような勇気はありませんでした。

思わず恥ずかしくなり、目線を外し、一緒にいたクラブの連れと足早にその場を立ち去りました。
心臓の高鳴りを感じながら、彼女の笑顔を無視してしまった罪悪感を覚えながら・・・

その日の夕方、下校時間に築山を通ると、もう彼女の姿はありませんでした。

「なぜうちの高校の文化祭に来たんだろう」

あの時、目線が合った瞬間、ヒロタさんの顔が一瞬のうちに笑顔に変わりました。
まるで、ずっと探していた人をやっと見つけた時のような、こぼれるような笑顔でした。

「どうして笑顔で答えてあげられなかったんだろう」

それからヒロタさんと一度もお会いすることはありません。
おそらくご結婚されて、幸せな家庭を築いておられることと思います。

ほんの一瞬の出来事で、長く引っ張る「不甲斐なさ」・・・

「笑顔が素敵なヒロタさん、大変失礼しました。どうかお幸せに」


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