「エンディングノート」について

「エンディングノート」というものがあることを知りました。
私の会社の女性事務員さんのお母さんが、今抗がん剤治療を受けておられます。
今日その事務員さんの口から、

「もしもの時の為にエンディングノートを買おうかと思って」

初めて耳にした「エンディングノート」。

【商品名】コクヨ エンディングノート もしもの時に役立つノート B5 LES-E101
【値段】927円

なんとなく状況から判断するに、

「死期を迎える際の備忘記録を記すノートのことか」

そんな風に考えたのですが、よくよく聞いてみるとそう重たく受け止めるようなものではなく、急な入院が考えられる当の本人が、世話をしてくれる家族や友人向けに様々な事を記録しておくことで「困った」をなくす記録簿ノートのことです。

人生の様々な「もしもの時」に備えるノート

例えば、

  •  家族が入院した際、家賃の振り込み口座が分からない
  • 子供の幼稚園の連絡先が分からない
  • クレジットカードの暗証番号が分からない
  • ネットバンキングのパスワードが分からない
  • お葬式の積み立てをしているが、どこに預金しているのか分からない

「遺言」のような死後の整理を記す重々しいものではなく、そうなる前のちょっとした気遣いを世話になる周りのものたちに書き残しておくという意味合いのものです。

もうちょっと踏み込めば、

  • 延命だけの治療なら辞めて欲しい
  • お葬式に呼ぶ人はこの方々だけにして欲しい

と、ある程度「死」を意識した雑記帳になったりもします。
事務員さんからこの「エンディングノート」の話を聞いたとき、

「なるほどそんなものが商品としてあるのか」

感心してしまいました。
人間の尊厳が重視される社会だからこそ、出てくる商品だと思います。

私が働いているベトナムでは、まずこんなものが世に出てくることはあり得ません。
目もくれないんじゃないかと思います。

35年前までベトナムは血みどろの戦争をしていました。
他の東南アジアの国々もそうですが、人命と経済発展が同列の価値観で語られる社会です。
高度成長期時代の日本と同じく、公害をまき散らしても、光化学スモッグが子供の健康に害を及ぼすと分かっていても、経済成長に邁進した時代。

日本列島改造論、狂乱バブル、毎週値上がりする都心の不動産に国民が飛びつき「1億総不動産屋」と評され、東京都だけの土地でアメリカ全土が買えた狂った時代。

しかしそんな宴の後に残ったのは、山のような銀行の不良債権と深刻なデフレ。
アメリカ発のリーマンショックと重なり、日本経済は冷や水を浴びせられたように停滞期に入っていきます。

失われた20年。
私がサラリーマンとして働いてきた時期はほとんど不景気と隣り合わせでした。
何をやっても昔ほどうまくいかない停滞時期に日本国中が、

「何の為に仕事をしているのか、何を目標に生きていくのか、何が一番大切なのか」

日々自問自答し続けていた時期かと思います。

「何かを得れば何かを失う。そして何ものをも失わずに、次のものを手に入れることは出来ない」

大好きな開髙健さんの言葉です。
そういう意味では、私達日本人は戦後の焼け野原から世界第二位の経済大国にのし上がった過程で、何よりも優先して守られるべき「人間として幸せを追い求める自由」を犠牲にしてきたことに気がついています。

功利至上主義には限界がある。
経済発展を世界中の国が目指すとすれば、地球上の資源は幾らあっても足りないでしょう。

家族みんなが笑顔で楽しい家庭、親子そして孫がお互いいたわり合う家族

昔の日本にあった家族愛に満ちた原風景に戻るには、一度は激しい豊かさと息が詰まるような閉塞感を続けて経験しない限り無理なのでしょうか。
ジェットコースターのような激動の時代を経ないと、人間の欲は落ち着いてこないものでしょうか。

家族の中で一番死に近いものを、暖かく見守ってあげようとする発想の先に生まれてくる「エンディングノート」。

家族の死。
死を子供たちにダイレクトに意識させることのできる、最高の教育の場でもあります。
しかし「死ぬ準備をするためのノート」という位置づけではなく、

「残された時間を有意義に生きていく為に備忘記録を残していくんだ」

そういう前向きな気持を根底に、安心して生活する為の文房具だと思います。

私の親は今年で80歳です。
そろそろ「エンディングノート」を渡して書いてもらおうかな。
しかし、「エンディングノート」という名前がちょっと嫌ですね。

まだ終わりじゃない、これからもうちょっと頑張りたいんだ

そんな方の為に「明日ノート」などと呼んだ方が良いんじゃないかな。
明日に備えて、そしてまた明日、さらに明日・・・

「物忘れ」や「体の不自由さ」と戦う為に自分が知る情報を文字にする、
そして家族を巻き込んでみんなで戦う。

ものは使いようですね。


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