中島京子さんの「小さいおうち」を読んで

直木賞作家の小説を最近読むようになってきました。
今までになかった本の選び方です。

もちろん中島京子さんのことも、失礼ながら知りませんでした。
でも「小さいおうち」は家族で「永遠の0」を映画館に見に行ったとき、近日公開作品としてポスターが通路壁面に張り出してあるのを見て、初めて作品の存在を知りました。

昭和10年頃から終戦、そして戦後少し・・のお話。
戦前の軍国主義が背後から忍び寄っていた時代。
徐々に不穏な空気が色を濃くしていったその過渡期。
しかし、そんな時代の中で東北から出て来た15歳の少女タキが、富裕層の邸宅の女中として持ち前の生真面目さと明るさで力強く生きていく日常を綴ったお話です。

  • 【作家名】中島京子さん
  • 【生年月日】1964年(昭和39年)
  • 【ご紹介本】「小さいおうち」
  • 【出版社】文春文庫
  • 【作家の経歴】※中島京子 Wikipedia より
    ・2003年 – 『FUTON』で第25回野間文芸新人賞候補
    ・2006年 – 『イトウの恋』で第27回吉川英治文学新人賞候補
    ・2007年 – 『均ちゃんの失踪』で第28回吉川英治文学新人賞候補
    ・2008年 – 『冠・婚・葬・祭』で第29回吉川英治文学新人賞候補
    ・2010年 – 『小さいおうち』で第143回直木賞受賞

「小さいおうち」の予告などを読むと、

「小さいおうちに封印された秘密が、60年の時を経て紐解かれる」

なんかミステリアスなストーリーを連想させる内容なんですが、ちょっと違うかなと思います。
その秘密自体はさほど大きな問題じゃない。

確かに女中タキちゃんは奥様の秘密を棺桶まで持って行くつもりでした。
でも、甥っ子の小生意気な健史や女性編集者に見つけられることをある程度期待しながら、きちっとノートに書き記します。
そして最後、その秘密は明らかになります。

その秘密を知って主人公タキちゃんがどう考え、どう行動するのか、ここが面白い。

全てのページを読み終え、私が「小さいおうち」から感じる魅力は、「秘密の中味が何か」というような謎解きなどではなく、あの戦争に突入していく暗い昭和初期の時代に、東北出身者の純粋な心を持つ女中タキを登場人物に据え、昭和の風景をバックに「語らせ・泣かせ・笑わせる」その一挙手一投足にあり、その描写が痛快なんです。

太平洋戦争に突入する昭和10年頃からこの物語はスタートします。
明治より西洋文化を取り入れ、大正浪漫が花開き、国威が発揚され、まさに戦前の絶頂期から戦後焦土と化すまでの激動の時代が舞台です。

1964年生まれの作家中島京子さんが、タイムスリップしてタキと同じく平井家で生活していたような写実的な表現力にまず驚かされます。

タキちゃんの目から見ると、激動の時代だったはずなのに、あまり戦争の匂いが漂ってこない。

大政翼賛会の信望者の睦子さんが、「銃後の備え」を声高に主張している様子を襖の陰からこわごわ眺めているタキちゃん。

「昭和15年がそんなにのんびりした時代なんてウソだ」

と甥の健史に攻められた時、

「でもそんな感じだったんだけどな」

と一人ごつタキちゃん。
しかしそれは、女中タキが時代の流れに押し流されない強い「自分」を持った東北人だったということを、作者は暗に主張したかったんだと思います。
そしてその木訥とした女中タキの目を通して、戦前の日本人がどんなふうに戦争に踏み込み、そして戦中を堪え忍び、終戦を迎えたのか、を表現することで戦争の愚かさ、恐ろしさを逆に際立たせたかったんじゃないかなと思います。

僕は「小さいおうち」を通して昭和の時代を垣間見ることができたこと、しかもタキちゃんのピュアな心を通じて疑似体験できたこと、これだけでも充分満足です。
「平井家の秘密」は二の次で良い。
それも結局タキちゃんの人となりを説明するエピソードの一つくらいとして受け止めています。

戦時中を舞台にした小説はたくさんありますが、この中島京子さんの「小さいおうち」は初めて触れる新鮮さがあります。
素敵な女中のタキちゃんに合わせてくれた作者に感謝したいと思います。

「ほんわか」としたストーリーで「しっかり」と昭和初期を旅したい方にお勧めの本です。